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Monday, September 28, 2020

なぜ世の中に普及しないのか--ブロックチェーンビジネスの高いハードル - ZDNet Japan

 仮想通貨、ICO(Initial Coin Offering)、STO(Security Token Offering)、DeFi(Decentralized Finance)、トレーサビリティーなど、ブロックチェーンの使い道としては、多くのユースケースが提唱され始め、既に5年くらいが経過しようとしています。日本ブロックチェーン協会(以下、JBA)をはじめ、世界中でブロックチェーンは世の中を変える技術であり、巨大なビジネス市場があると見込んでおります。

 ⼀⽅で、みなさまの実感としては、まだまだ世の中への普及もしておらず、実際にブロックチェーンに触れることが少ないと思います。「なぜ世の中にブロックチェーンが普及しないのか。ブロックチェーンビジネスの高いハードルは何か」を俯瞰的に考えてみたいと思います。

最近のブロックチェーンの印象とその問題点

  • 「実証実験をやってみたけど、それで終わっている」
  • 「正直、仮想通貨くらいしかビジネスにならないのではないか」
  • 「結局、ブロックチェーンって使えない技術なのだろうか」

 こんな声を耳にします。私は、下記2つがブロックチェーンビジネスを⾏う上で⼤きなハードルになっているのではないかと考えています。

  1. ブロックチェーンの特徴と使い所
  2. 法律と技術の両方を理解することの難しさ

ブロックチェーン技術者の不足

 ブロックチェーンの技術者は圧倒的に足りていません。また、仮想通貨バブルが弾けた後の2017年以降は、全体的に仮想通貨やブロックチェーンの分野に参入する技術者の数が少なくなった印象があります。

 通常、ソフトウェアは多くのエンジニアがトライ&エラーを多く繰り返し、知見をオープンソースコミュニティーや企業に持ち帰り、それを業界全体で循環させることで技術を成熟させ、⼀般利用に耐え得る技術にして使いやすくしていきます。

 一方で、ソフトウェアを利用する技術者が少ない場合、「安心して使える技術」として成熟するまでに時間がかかります。今のままでは、業界全体が盛り上がるまでに、それ相応の時間がかかると考えています。

ブロックチェーンの特徴と使い所

 ブロックチェーンは、2008年に発表された「ビットコイン」から始まった技術です。現在では、ビットコイン以外にも、多くの仮想通貨とブロックチェーンのプロジェクトが生まれています。

 ブロックチェーンの特徴は「透明性の高さ」「改ざんの困難さ」「24時間の稼働」など、既存のデータベースでは信頼性を担保しにくかったことが簡易的に⾏えるようになっている点にあります。

 これらの特徴を持つブロックチェーンのプロジェクトの多くは、金融関連もしくは契約や選挙などの「法律が複雑に絡み合う部分」で⾏われることが多いのです。また、それらの手続きの多くが紙やはんこを必要とした法律になっています。

 法律問題がブロックチェーン業界に与える影響としては、業界全体の進みが遅いことです。新型コロナウイルス感染症の影響でようやく、はんこや契約の電子化についての議論が始まりましたが、インターネットが生まれて25年も経過しているにもかかわらず、いまだに多くのものが電子化されていません。総理大臣が交代し、新型コロナウイルス感染症に対応するためにデジタル変革が求められる今、業界全体が一気に進んでいくことを期待しています。

法律と技術の両⽅を理解することの難しさ

 ここで一番言いたいことは、「法律と技術の両⽅を理解すること」の難しさです。現在の日本の法律は、戦後に作られた憲法をもとに制定されているものです。既に70年以上の運⽤がされており、何度も改変されています。また、それぞれの法文書が意味を持っており、ソフトウェアエンジニア的に言うと法律が“スパゲッティーコード化”されている状態です。

 ブロックチェーンビジネスで直面するのは、この難解で複雑な法律をしっかりと整理すること。また、整理した後に十分に理解し、ビジネスで使えるレベルまで深めること。ここに多くの工数が取られます。また、多くのエンジニアが法律文書を正しく理解する能⼒を備えていないため、弁護士や法学部出身者と一つひとつ丁寧に進めていく必要性があります。

 例えば、契約書を例に取ってみましょう。はんこで契約が成立したと判断する場合には、「双⽅のはんこが押されたタイミングである」と考えるのが普通です。ブロックチェーンでこれを再現するには「双方がプライベートネットワークを利用し、電子署名でサインしたとき」と考えるのが普通です。

 一方で、実際の法律がどのようになっているかというと「文書の真正な成立は、相手方がこれを争わない場合には、基本的に問題とならない。また、相手方がこれを争い、押印による民訴法第228条第4項の推定が及ばない場合でも、文書の成立の真正は、本⼈による押印の有無のみで判断されるものではなく、文書の成立経緯を裏付ける資料など、証拠全般に照らし、裁判所の自由心証により判断される。他の方法によっても文書の真正な成立を立証することは可能であり、本⼈による押印がなければ立証できないものではない」と記載されています。要するに、最終的には裁判所の判断になるわけです(PDFファイル)。

 データを書き換えられないブロックチェーンでは、裁判所の判断で契約が覆されてしまった場合はどのようにブロックチェーンに記載すべきか。また、それが数珠つなぎのように「Aの契約が成立すると、Bの契約が成立する」といったスマートコントラクトを書いていた場合、どのようにそれをロールバックさせるのか。技術と法律を鑑みながら実装していくことは、とても難しいことなのです。

最後に

 今後、ブロックチェーンが発展していくことは間違いないとしても、技術と法律の双⽅を理解しながら実装を進めていくのはとても難しいことです。JBAでは、こういった課題に対して取り組み、ブロックチェーンに触れやすくしていくつもりです。

小川 晃平
日本ブロックチェーン協会 理事
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント卒業後、グリーに入社。2012年より、グリー米国支社に赴任し、全米3位のモバイルゲームのリード・サーバーエンジニアを務める。同社退社後、AccumBitを創業し、ビットコイン/ブロックチェーンを使ったサービスの開発を進める。2016年12月にVALUを創業し、代表取締役に就任。2018年7月に日本ブロックチェーン協会(JBA)理事就任。

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