日本を代表する菓子メーカー・ロッテ。特にチューインガム市場では国内最古の歴史を持っていて、その歴史はロッテが創業した1948年にさかのぼる。54年1月に日本初の天然チクル樹脂を配合したチューインガム「バーブミント」ガムを発売して以来市場を拡大させ、国内トップメーカーに約60年君臨し続けているのだ。現在にいたるまで国内市場の半分以上を占めている。
積極的なコラボ
近年ではコラボ商品の展開も積極的に展開している。8月には人気アニメ『鬼滅の刃』とコラボしたガムを発売し、さらに10月5日には世界的韓流アイドルグループ・BTSとコラボしたガムを発売した。いずれも即日完売になるなどの人気を見せている。
ロッテはスポーツ振興事業にも注力している。プロ野球においては1969年の「ロッテオリオンズ」から参画していて、現在では「千葉ロッテマリーンズ」として球界の一画を占める。野球以外でも、千葉県ではゴルフ場、東京都ではゴルフ練習場を経営している(現在はいずれもロッテホールディングスの傘下)。
そんなロッテは、近年噛(か)むことによるアスリート支援に社を挙げて注力している。噛むことによって得られる「噛む力」に着目して、2019年からさまざまなスポーツ・アスリートへアプローチをし、ガムを提供することでアスリートのパフォーマンスに寄り添い活動している。
例えば、千葉ロッテマリーンズでは、既に当たり前に実施されている。毎年春に行われる石垣島のキャンプでは、その年に入団した新人選手が到着すると、噛む力の測定を実施するのは今や風物詩となっている。そして選手一人一人の噛む力やバランスに適したオリジナルガムを開発し、選手達はこのガムを練習中や試合中などに取り入れている。
このガムは「プロモデルガム」とも呼ばれ、選手からも好評だという。こうした施策のかいあってか、現在千葉ロッテマリーンズは2005年以来16年ぶり、勝率1位では47年ぶりのリーグ優勝を目前にしている。
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羽生結弦選手にもガムを提供
選手一人一人に応じたガムの開発は、ロッテ中央研究所の噛むこと研究部が開発していて、千葉ロッテマリーンズ以外のプロアスリートに向けた開発も実施している。サッカーJ1リーグの川崎フロンターレ、プロゴルファーの中嶋常幸プロや成田美寿々プロ、フィギュアスケートの羽生結弦選手などにも専用ガムを提供している。
こうした中、近年注目されているeスポーツにもロッテは「噛む力」を伝播(でんぱ)させようとしている。世界的なプロゲーマーとして活躍するウメハラこと梅原大吾選手(プロゲーマー「ウメハラ」の葛藤――eスポーツに内在する“難題”とはを参照)の専用ガムの開発を始め、9月にはロッテ本社で噛む力の測定も実施した。測定はガムの監修も手掛けるスポーツ歯科の第一人者、東京歯科大スポーツ歯学研究室の武田友孝教授によって行われ、ウメハラ選手の噛む力は一般成人並みも、咀嚼(そしゃく)バランスは抜群という結果になった。
これに対してウメハラ選手は、「一番つまらないですね」と笑って言いながらも、「食事の時間もすごく短く、噛む力が弱いのではないかと思っていた。ちょっと安心しました」と話した。
続いて、専用ガムのフィッティングに移った。まず、専用ガムには種類があり、従来の板ガム状のものと、ボトルガム等で採用されている粒状のものの2種類の形がある。固さは標準の「ミドル」でも市販されているガムの1.5倍の固さがあり、さらに噛む力に念頭を置いていることから、噛み始めから硬さが一定になるようになっているという。「ハード」は市販されているガムの3倍の硬さがあり、ウメハラ選手は粒状で「ハード」のものを選んだ。
味も10種類から選択が可能で、「梅」や「ブルーベリー」、「ミント」など、市販されているおなじみのものから、「エナジードリンク味」など変わったものもある。ウメハラ選手は、「昔よく噛んでいたガムの味」という由来から、ブルーベリー味を選んだ。このウメハラ専用ガムは、10月21日に贈呈された。
ウメハラ選手は最後にこう感想を話した。
「eスポーツはまだ注目され始めてから時間が経ってないので、トレーニングの方法など、科学的な観点から検証の余地がいろいろとあります。今回、専門家に見ていただけたことはeスポーツそのもののレベルが上がっていくことにつながると思います。『噛む力』が実際にどんな良い影響を与えるかは、身をもって示していきたいですね」
また、噛む力とスポーツの関係について、武田教授は、「よく噛むことによって、脳の発達にも良い影響を及ぼします。脳は特に前頭前野に良い働きを及ぼし、eスポーツにおける適確な状況判断や動体視力の向上にも繋がります」と太鼓判を押した。
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ロッテの狙いは? 市場は縮小傾向
企業としての狙いは何か。ロッテ広報課の似内裕一課長はこう話す。
「当社はESG中期目標で、国内で噛むことを意識して実践している人の割合を2028年度までに50%以上に拡大することを掲げています。もともとスポーツにも力を入れており、『噛む力』によるアスリートの支援を行っています。こうした活動を通じて、噛むことの大切さを一般消費者の方にも訴えていければと思います。今後も多くの分野のアスリートを噛むことの啓発を通じて応援していきたいですね」
ロッテとしてのガム市場のシェアは堅調ではあるものの、実はガムの国内小売市場の規模そのものは縮小の一途をたどっている。日本チューインガム協会の統計によると、小売市場のピークは2004年の1881億円に対し、19年は930億円、コロナ禍に見舞われた20年は755億円と、約60%減とピーク時の半分以下に落ち込んでいる。
理由は2000年代半ばに入り台頭してきた、タブレットタイプ製品の普及だ。噛み終わったものをごみとして捨てなければならないガムに対して、タブレットタイプのものは口に入れるだけという手軽さに魅力がある。
だが、タブレット菓子は噛むことが基本ないため、噛むことによって得られる健康面のメリットはない。噛むことによって得られる効能はガムならではのものだ。こうした科学的な裏付けを取りながら、今一度チューインガムの魅力についてPRしたい狙いがある。
18年のガムによる支援開始から3年。日本の2大プロスポーツとして野球・サッカーが注目を浴びているが、野球界では千葉ロッテマリーンズのリーグ優勝がかかっている。そしてサッカー界では川崎フロンターレが常勝軍団と化してさらに躍進。これらは偶然なのか必然なのか。「噛む力」は全くの無関係なのか。これにウメハラをはじめ、支援するアスリートによる成果がさらに続けば、ロッテもチューインガムも「再評価」される日も遠くはないかもしれない。(一部、敬称略)
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