そう遠くない将来に人類が手にするであろう火星の岩石のサンプルが、ついに採取されたかもしれません。現地時間9月2日、アメリカ航空宇宙局(NASA)は火星探査ミッション「マーズ2020」の探査車「Perseverance(パーセべランス、パーサヴィアランス)」による2回目の岩石サンプル採取が実施されたことを明らかにしました。
冒頭の画像は、岩石の掘削に用いられるコアリングビットを掘削後に撮影したものです。撮影にはPerseveranceのズーム対応カメラ「Mastcam-Z」が使用されました。中央に写っている4つの突起を持ったリング状の物体が筒状のコアリングビットの先端で、その内部にはサンプルを収める長さ15cmほどのチューブ状の保管容器がセットされています。画像には採取されたサンプルが容器の中に入っている様子がはっきりと捉えられています。
■採取されたサンプルを一時確認、その後の操作で容器の奥まで入った可能性
サンプルの採取に成功した、と断言できればいいのですが、日本時間9月3日正午の時点では結果が確定していません。運用チームは「Rochette」(ロシェット、後述)のニックネームで呼ばれる岩石の表面の一部を研磨して内部の様子を分析した後、現地時間2021年9月1日にPerseveranceによるサンプル採取を実施しました(サンプル採取の流れについては以下の関連記事を御覧下さい)。
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前述の通り、採取の実施直後に撮影した画像ではサンプルが容器内部に入っている様子が確認されていますが、この後に撮影された画像では容器内部のサンプルが見えなくなっています。これは保管容器の開口部の縁から残留物をふるい落とすためにコアリングビットを振動させる操作(1秒間続く振動を合計5回実行)を実施した後に撮影されたもので、サンプルが振動によってチューブ状の容器の奥に滑り落ちていったために見えなくなったことが考えられるといいます。コアリングビットの振動後に撮影された画像では保管容器の中が暗くて奥まで見通せないため、サンプルの状態が確認できませんでした。
Perseveranceを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)によると、運用チームはサンプルが容器内部に残っていることを確信しているものの、太陽光をうまく利用するか、あるいは太陽光の影響を受けない日没後に改めて画像を撮影することで、念のために容器内部を再確認することが計画されています。新たな画像は現地時間9月4日早朝に地球へ送信される予定です。
仮に追加の画像撮影でサンプルを確認できなかったとしても、ロボットアームとの保管容器受け渡しや密閉作業などを担うAdaptive Caching Assembly(ACA、Perseveranceの車体に搭載)では容器を密閉・保管する際にサンプルの体積測定や画像撮影を行うため、サンプルの状態を確認する機会はまだ残されています。
■前回の試みでは岩が砕けてしまいサンプルを採取できず
マーズ2020の主な目的は火星に存在していたかもしれない微生物の痕跡を探すことですが、NASAは欧州宇宙機関(ESA)と共同で火星からのサンプルリターンミッションを計画しており、Perseveranceは火星探査史上初めて地球に運ばれる火星のサンプルを採取するという重要な役割も担っています。サンプルが入ったチューブは将来送り込まれる予定の回収用の探査車に拾い上げられることを見越して、Perseveranceが降り立ったジェゼロ・クレーターの地表に置かれることになっています。
保管容器はPerseveranceに43本搭載されており、そのうち約30本を使ってサンプルを集めることが予定されています。初の岩石サンプル採取は現地時間2021年8月6日に試みられましたが、この時は岩が細かく砕けてしまったために容器へ収めることができませんでした。
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その後Perseveranceは北西に向けて移動し、8月26日には2回目のサンプル採取候補となった岩石「ロシェット」の画像が公開されていました。この岩は小高い尾根の一角にあり、長期間の風食(風による侵食作用)に耐えてきたとみられています。1回目のサンプル採取におけるPerseveranceの動作そのものには問題がなかったことと、風食に耐えてきたロシェットは掘削にも耐えられる可能性が高いことから、今回は採取の成功が期待されていました。
ロシェットからのサンプル採取に成功したとすれば、この岩石サンプルは約30本の採取が予定されているうちの1本目であり、今後もPerseveranceによるサンプル採取の旅は続きます。サンプルを収めた保管容器はPerseveranceの車体下部に一旦保管されますが、後日ジェゼロ・クレーターの地表に置かれ、今後打ち上げが予定されている回収役の探査車によって拾い集められます。集められた保管容器は小さなロケットに移された後に打ち上げられ、帰還用の探査機を使って地球に戻ってくる予定です。計画が順調に進めば、人類は10年後の2031年に火星地表のサンプルを手にすることになります。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏
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