国立極地研究所(極地研)の南極氷床深層掘削事業で重要な役割を担うドリルに、東洋刃物(富谷市)製の刃が用いられている。2023年以降に始まる次の掘削に向け、同社は製品を2月に納入。マイナス80度にも及ぶ南極の過酷な環境下で氷を削る刃には高い耐久性が求められる。太古の地球環境に迫るプロジェクトに、宮城で培われた技術が力を発揮する。
1枚5センチの刃は、複数の元素を独自配合した鋼で製造される。長さ約12メートル、直径約12センチのドリル先端に3枚装着し、アルミ製パイプ内を回転させて掘り進めることで、氷床から長さ4メートルほどの氷柱を切り出す。
予備や実験用を含む50枚の刃は2月12日、ドリルを製造する九州オリンピア工業(宮崎県国富町)に納められた。東洋刃物富谷工場の志村英幸技術課長は「超低温でも硬さと欠けにくさを保てる熱処理や素材選びが難しい。何パターンも比較検討した」と明かす。
極地研は1995年から南極氷床の掘削事業を実施する。第3期の次期計画は3000メートルを超える深さから氷柱を採取、閉じ込められた空気などを分析し、約100万年前までの大気の組成や気候変動を調べるのが目的だという。
鉄鋼、食品、情報などの産業機械用刃物を手掛ける東洋刃物は第1期から携わる。他の製品では想定されない環境下で役割を果たせるよう、冷凍した刃に衝撃実験を行うなど工夫を重ねてきた。
産業用燃焼機器が主力の九州オリンピア工業は、氷床を熱で溶かしていた70年代から南極用ドリルを製造する。初めて刃を使った第1期はトラブルが相次いだが、氷の削りかすの回収機構などを大幅に改良。刃の性能も向上し、第2期は深さ約3000メートルからの氷柱採取に成功した。
同社の小林明雄第2技術課長は「南極氷床は浅い箇所でもマイナス60度近くあり、突破するのに共に苦労してきた。東洋刃物さんの刃でないと要求水準を満たせない」と言い切る。
現地では22年から設備の搬入など掘削の準備作業が実施される予定。既にドリルは完成し、実験を繰り返しつつ出番を待つ。一方、東洋刃物は新素材の開発も進めているという。
桂嶋優行製造部課長は「南極での活躍に思いをはせると普段味わえない達成感がある」と話す。刃の営業を担う坂本達哉広島営業所長は「各国から研究者が集う取り組みに関わっていることは誇りだ。地球や宇宙のさらなる探査にも携わりたい」と思い描く。
南極氷床深層掘削事業 極地研が南極大陸を覆う氷床を掘削して氷を取り出し、太古の地球環境を探査する計画。第1期(1995~96年)は2503メートル、第2期(2004~07年)は3035メートル掘り進め、それぞれ約34万年前、約72万年前までの気候変動や大気の組成を解明した。いずれも昭和基地から南に約1000キロの観測基地「ドームふじ」で実施した。
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