<トルコの侵攻を事実上容認したことで、シリア駐留米軍も窮地に。ISと勇敢に戦い土地を奪還したクルド人がいなくなれば、ISの元戦闘員が勢力を盛り返す可能性もある>
トルコは10月9日、シリア北東部への軍事作戦を開始した。ターゲットは、これまで米軍が支援してきたクルド人勢力。この地域に駐留し、クルド人を支援してきた米軍が巻き添えをくう危険性も高まっている。シリア駐留米軍にはIS (イスラム国)掃討作戦を打ち切るよう命令が下っており、再び混乱が拡大しかねないことが本誌の取材で明らかになった。
トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は9日、ISの残党と米軍が支援するシリアのクルド人部隊に対し、シリア政府軍と合同で軍事攻撃を開始するとツイッターで宣言した。ドナルド・トランプ米大統領は、トルコが軍事作戦に踏み切ればトルコに制裁を科し「トルコ経済を完全に破壊する」と脅したが、今更言っても遅過ぎた。
トルコは長年、国内とシリアとの国境地帯のクルド人を敵視し、米軍がIS掃討のために軍事・資金援助を行なってきたシリアのクルド人部隊に「テロ組織」のレッテルを貼ってきた。
米国防総省の上級職員が9日午後に本誌に明かした話によると、シリアにおける米軍の対IS作戦は完全に打ち切られた。それに伴い、ISの捕虜の扱いなどもトルコの手に委ねられたという。
「捕虜になったISの戦闘員が1人も逃亡せず、どんな方法や形であれ、ISが再編成されないよう保証する責任は、今やトルコにある」と、トランプは9日に声明を出した。トランプは、トルコの軍事作戦は「悪い考え」で、アメリカは攻撃を支持しないと述べているものの、これまで米軍と共に戦ってきた忠実で勇敢なクルド人部隊には最近まで一切言及しなかった。
本誌が7日に伝えたとおり、トルコの軍事攻撃を控えて米軍はシリア北部から撤収したが、シリアから全面撤退はしていない。北部から撤収した部隊には、特殊部隊と偵察部隊も含まれる。
国防総省の上級職員によると、クルド人戦闘員の間では、米軍に裏切られたという怒りが高まっており、撤収する米軍を直接攻撃することはないにしても、何らかの形で妨害を行う可能性はあると見ており、現地の米軍指揮官は警戒しているという。
共和党議員も批判
クルド人部隊はもはや、米軍が緊急に結集を呼びかけても応じず、米軍の戦闘部隊のための情報収集にも協力しない可能性がある。上級職員の話では、今のところ米軍の交戦規定は引き続き自衛を中心にしたもので、国防総省はまだシリアからの全面撤退を命じていないという。
米軍は目下、クルド人を主体とするシリア民主軍が運営する刑務所から、特定の重要なIS戦闘員の身柄を引き取ろうとしている模様だ。
上級職員が話したことは、IS掃討作戦の打ち切りを除いて確かだと、シリアに駐留する米軍の情報筋も認めた。いずれの情報筋も、匿名を条件に取材に応じた。本誌は国防総省にコメントを求めている。
本誌が7日に伝えたように、トランプは6日、エルドアンとの電話会談で、シリア民主軍が収監しているざっと2000人のIS戦闘員について米軍は責任をとりたくないと述べた。ホワイトハウスは6日の声明で、トルコがISの捕虜の身柄を引き受けることになると発表している。
トランプが突然、シリア北部からの撤退を決めたことに、米議会の共和党も民主党も猛反発している。
「トランプ政権に恥知らずにも見捨てられた我らがクルド人の盟友のために祈ろう」と、共和党のリンゼー・グラム上院議員は9日にツイートした。「これにより、ISは確実に息を吹き返すだろう」
トランプは8日には、裏切り批判をかわすため「シリアから撤収する準備を進めているにしても、われわれはクルド人を決して見捨てない。彼らは特別な人たちで、素晴らしい戦闘員だ」とツイート。クルド人部隊には資金援助も武器の提供も行なっていると強調した。
<参考記事>エルドアンに「言いくるめられた」トランプ、米軍シリア撤退ならISが甦る
<参考記事>トルコ、シリア北東部への軍事作戦開始 クルド攻撃で民間人の死者5人
ISから奪還した土地にクルドの旗を立てる自由シリア軍兵士と米兵(シリア北部テルアビヤド) Staff Sgt. Andrew Goedl/U.S. Army
2019-10-10 10:30:00Z
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