これまでオンライントラベル業界を取り上げて来なかったので、今回は初めて取り上げてみたいと思います。
日本のオンライントラベル業界では、「楽天トラベル」やリクルートの「じゃらん」が大手になるかと思いますが、この2社ともセグメント情報を詳細に公開していないため、今回は海外の大手オンライントラベル会社の決算を詳しく読み込んでみたいと思います。
一口にオンライントラベルと言ってもビジネスモデルが異なるので、今回はモデルの異なる2社の主要なプレイヤーに着目したいと思います。
まずは、航空券や宿泊予約を扱う「Expedia」を取り上げます。
それと比較する形で、次にユーザー投稿型のレビューサイトである「TripAdvisor」も取り上げていきたいと思います。
Expedia:取扱高と売上、テイクレート
はじめにExpediaの2017年10月から12月期の決算資料を詳しく見ていきましょう。
*Expedia inc. Investor presentation (2018/2/8)
2017年の1年間でトラベル関連の取扱高が$88B(約8.8兆円)、売上が$10.1B(約1兆100億円)、というとてつもない規模になっています。
テイクレートを計算すると11.5%になるので、Eコマースよりは若干高いテイクレートを取るのがオンライントラベル業界だと考えてよいでしょう。
Expedia:超巨大な市場
次にオンライントラベル業界の市場規模を簡単におさらいしておきます。
グローバルで見ると、オフラインも含めた旅行業界全体で$1.6T(約160兆円)の市場規模があり、そのうち44を%オンライントラベルが占めている状況です。
Expediaは、アメリカ・カナダのオンライントラベル市場のうち27%をとっており、北米で非常に強い会社だと言えるでしょう。
一方で、ヨーロッパ・アジア・南米ではまだ市場シェアがそこまで高くなく、これからまだまだ伸びしろがあるとも言えるのではないでしょうか。
Expedia:ネットワーク外部性が効くマーケットプレイス
ビジネスモデルをおさらいしましょう。
この図にあるように左側の「利用者」と、右側の「ホテル・航空会社・レンタカー」をつなぐマーケットプレイスになっています。
図の左側にあるように、世界75カ国、6億7,500万人の月間利用者があり、右側にあるように59万以上の宿泊施設、150万以上の民泊施設、550以上の航空会社をつないでいます。
マーケットプレイスモデルのため、ネットワーク外部性が働きやすく、一旦マーケットシェアを取ると崩れにくいモデルになっています。
(*ネットワーク外部性=特定のサービス等の利用者が増加するとサービスの利便性や効用が増加すること。この場合は、Expediaの利用者が増えるとホテルや航空会社はExperiaに更に情報を掲載するようになるので、利用者は更に便利になるという好循環を指します。そのため利用者は他のサービスを使う必要がなくなるので顧客が流出しにくくなるというモデルです。)
Expedia:様々なニーズに対応するサービス群
Expediaという会社の中には複数のサービスが存在しています。
左側にあるように、Expediaや「Hotels.com」などのいわゆるオンライントラベルサービスだけではなく、「HomeAway」などの「Airbnb」のような民泊を取り扱うサービスもグループに保有しています。
Expedia:Airbnb対策も万全?
最近は日本でもAirbnbなどの民泊が話題にのぼることが増えてきているかと思いますが、Expediaグループの中にある民泊サービスのHomeAwayのビジネスモデルを少し詳しくみましょう。
先ほどの図に小さく書いてありますが、民泊のHomeAwayだけで年間$9B(約9,000億円)もの取扱高があるという非常に大きなサービスです。
左側の2016年の売上構成を見ると、青い部分の「Subscription=掲載料」が大きかったのですが、右側の2017年の売上構成を見ると「Transaction=取扱手数料」のオレンジの部分が68%と大きくなってきました。
このスライドに書いてあるように、元々は固定費の形でHomeAwayに掲載料を徴収するモデルだったわけですが、Airbnbなどとの競争もあり、徐々に取扱手数料という取扱高に比例するモデルに移行しつつあります。
Expedia:YoY+20%以上の成長
最後に決算の概要を簡単に見ておきます。
左上の青いグラフは合計の宿泊数です。こちらは年平均27%で成長しており、2017年は3億泊を越えています。
右上の取扱高は年平均24%で成長しており、2017年は$88B(約8.8兆円)を超えました。
左下の売上は年平均22%で成長しており、2017年は$10.1B(約1兆100億円)を超えました。
右下のEBITDAは若干減速してきてはいますが、2017年で$1.7B(約1,700億円)を超える非常に大きな収益を生み出しているのがExpediaという会社です。
続いてユーザー投稿型のレビューサイトである、TripAdvisorの決算も見ていきましょう。
TripAdvisorは、予約型マーケットプレイスのExpediaと同じユーザー層がターゲットでありながら、全く違うビジネスモデルとトレンドになっています。
このあとは、TripAdvisorの決算とビジネスモデル、注力している事業について詳しく見てみます。
最後に、「予約型マーケットプレイス」と「レビューサイト」のトレンド比較も行います。
旅行業界の方、オンライントラベル業界の方だけでなく、メディア関連の方にも役に立つ内容だと思います。
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・TripAdvisor:売上とセグメント
・TripAdvisor:ホテル事業の一歩足打法からの脱却
・TripAdvisor:●●と●●に注力
・まとめ:Expedia vs Tripadvisorから読むオンライントラベル業界のトレンド
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TripAdvisor:売上とセグメント
TripAdvisorの決算を見ていきましょう。
*TripAdvisor, Inc. Q4 2017 Prepared Remarks
2017年の10月から12月期の四半期を見てみると、売上はYoY+5%の$1.556B(1,556億円)でした。ExpediaのYoY+20%成長と比べると売上の伸びに物足りなさを感じざるを得ません。
売上の内訳を見てみると、ホテルセグメントが前年同期比−1%、ホテル以外のセグメントはYoY+24%とはっきりと明暗が分かれています。
営業利益を見てみると、2016年の一年間ではGAAP(米国会計基準)ベースで$120M(約120億円)の営業利益が出ていたところが、2017年は一年間で$−19M(約▲19億円)と営業損失が計上されています。
なぜこのように利益率が大幅に悪化しているかと言うと、ユーザー獲得のためにマーケティング費用を大きく増額する必要があったからです。
左のグラフが対売上のマーケティング費用の割合、右のグラフがホテル事業のEBITDA利益率になります。これを見れば分かる通り、2017年に入ってからマーケティング費用が増え、それによって利益率が悪化していることがよくご理解いただけると思います。
TripAdvisor:ホテル事業の一歩足打法からの脱却
TripAdvisorはホテルの予約を扱っているわけではなく、クリック単位で課金する広告を販売しており、ホテルやExpediaなどのプラットホームが広告主になります。
上述のとおり、ホテルセグメントの今後の見通しはあまり明るいものではないと言えるでしょう。
従ってTripAdvisorとしてはホテル事業の一本足打法から脱却する必要があります。では、いったいどのようなサービスを提供しているのでしょうか?
TripAdvisor:レストランと体験型サービスに注力
TripAdvisorが現在注力しているのは、「レストランや体験型アクティビティのオンライン予約サービス」になります。
ユーザーが投稿したレビューを元に、人気のある体験型アクティビティをオンラインで予約できるようにすることで、現時点で以下のような数字まで積み上げ、成長率も十分高い水準にあります。
投稿された体験アクティビティ数: 91.5万(年間平均成長率 21%)
予約可能な体験アクティビティ数: 8.3万件(年間平均成長率 61%)
レストランの方も順調です。予約可能なレストラン数は年平均18%で増えています。実際にオンラインで予約された人数は年間5,000万人を突破し、年平均45%で成長しています。
予約可能なレストラン数:4.6万店(CAGR 18%)
レストラン予約数:5,000万人/年(CAGR 45%)
まとめ:Expedia vs TripAdvisorから読むオンライントラベル業界のトレンド
単純に2社だけを比較して結論を出すのは若干乱暴に見えるかもしれませんが、この2社はそれぞれのセグメントで非常に存在感があるプレイヤーであることは間違いありません。
Expediaの決算から読み取れることは、
・マーケットプレイス型のビジネスモデルは非常に強く
・まだまだ旅行業界がオンライン化していく余地もあり
・結果として売上は前年同期比+20%という高い成長率が維持できている
TripAdvisorの決算から読み取れることは、
・ホテル予約を直接扱わない送客(広告)に依存する広告モデルは徐々に厳しくなってきている
・一方でホテル以外の体験型アクティビティやレストランのオンライン予約はまだまだ伸びしろが大きく成長率も高い
という点は少なくても頭に入れておくべきトレンドだと思いました。
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