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Saturday, May 2, 2020

コロナ禍によって、真の「顧客関係」が浮き彫りにされる:「振り子はかならず戻ってくる」 - DIGIDAY[日本版]

Zoomを使った会議が普及し、本当に必要な出張について見直しが進むなか、コロナ禍の解消後のトレンドを見定めようとする動きが広まりつつある。

広告やメディア業界にとっては残念なことに、この不便なトレンドはしばらく続く可能性があるようだ。

経済が回復しても、広告業界まで波及するには時間がかかると思われる。マッキンゼーによれば、前回の金融危機では広告支出が2007年の水準に戻るまで4年もかかったのだ。今回の危機はそれよりはるかに深刻な影響をおよぼすと考えられる。ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)のベテラン社員リシャード・トバコワラ氏は3月に、私宛のメールで今回の危機を「9/11と2007年から2009年の金融危機をあわせて2倍にしたもの」と表現している。

大半のキャンペーンで延期や中止が進むなか、パブリッシャーやエージェンシーのあいだでは、支出を継続するクライアントを引き止めるためトリアージ的手法を採用するところもでてきている。営業やクライアント担当チームは、さまざまな趣向を凝らしてなんとか契約を取り付けようと苦闘している。いまや50万円規模の契約は500万円のように祝福される。

ディスカウントという苦悩

だがそこに難点がある。クライアントに一度、割引価格を提示してしまうと、もとに戻すのは難しい。クライアントの調達部門もコスト削減の重圧にさらされているのだ。短期的に見れば、資金繰りに苦しむライバル企業と価格の引き下げ競争に巻き込まれるおそれもある。Googleは先週、ニュース系パブリッシャー向けの広告配信料を5カ月間無料にすると発表した。あるパブリッシャー役員は、同社にとって月額で6万ドル(約645万円)近くになると明かす。現在の情勢下でどのアドテク企業でも負担できる額ではない。

広告エージェンシーのM&C サーチ(M&C Saatchi)で英国地域のマネージングディレクターを務めるカミーラ・ケンプ氏によれば、同社は割引を行っていないという。ほかのエージェンシーと同様、M&Cは一部社員を一時帰休とし、社員の給与を引き下げた。鍵となっているのが柔軟性だ。

「当社はクライアント向けに維持を目的としたリソース移行の支援を行っている」と、ケンプ氏は語る。「クライアントは、サービスや商品の戦略的移行に関する支援を強く必要としているのだ」。

GoogleとFacebookによる支配やクライアントのコスト削減に苦しめられてきた業界では、コロナ禍以前からより少ないリソースで大きな結果をあげる取り組みが続けられてきた。だが4月第2週、第3週に一時帰休やレイオフを発表したエージェンシーやメディアのオーナーらはこれには当てはまらないだろう。

4月第3週に、調査会社ピボタルリサーチ(Pivotal Research)でアナリストを務めるマイケル・レバイン氏は「エージェンシーはしばしば社員のトリアージを行う」と語っている。

広告業界の下り坂は続く

マーケティングコンサル企業のトリニティP3(TrinityP3)の代表取締役であり、「マディソン・アベニュー殺人事件」の著者マイケル・ファーマー氏は、広告業界は2004年から下り坂であり、デジタルマーケティングが台頭してきたと考えている。2008年と2020年は単にそれを加速させるだけというのが同氏の意見だ(とはいえ、WPPグループの株価は2015年、オムニコムの株価は2016年に史上最高を更新したのだが)。同氏は、コロナ禍が進むにつれて業務の範囲は拡大を続け、エージェンシーの手数料は加速度的に削減されていくだろうと予測する。残される人材にかかる負担は大きい。

同氏によれば、コロナ禍の前ですら、ある自動車メーカー大手はクリエイティブエージェンシー大手に1時間あたり115ドル(約1万2400円)しか支払わなかったという。そのアカウントの担当者75名の平均給与は約9万4000ドル(約1010万円)だ。「アクセンチュア(Accenture)やデロイト(Deloitte)、ベイン・キャピタル(Bain Capital)、マッキンゼーでは、経験ゼロの新卒にすらその倍の給与を支払っている」とファーマー氏は語る。

2000年代前半と同様、デジタルスタートアップが次々に市場へ参入したときに筆者が話を伺った専門家らは、今後マーケターにとって切迫した課題の解決を行うコスト競争力のある新企業が生まれるだろうと予測していた。

グローバルマーケティングコンサル企業のイービクイティ(Ebiquity)の会長、アラン・ラザフォード氏は、コロナウイルスのパンデミック下においても中国におけるEC関連のエージェンシーは堅調だと指摘する。「各社は仕事量に必要な人員を揃えられなかった」と同氏は語る。

前回の危機から得た教訓

インダストリーダイブ(Industry Dive)のCEO、シーン・グリフィー氏は、メディア企業は2007年から2009年に得た教訓を誤った方向に活かしていると指摘する。前回の危機は収益の多様化というトレンドを生んだ。だがイベントやプラットフォーム、ECといった広告以外の分野に進出したことで痛い目にあった企業は多い。90年代後半に、多くのパブリッシャーは非常に多様な市場に参入しようと試みた。だが不況となり、あらゆる市場でダメージを受けたことで反動としてパブリッシャーは1つか2つの中核事業に集中するのがトレンドとなった。「振り子はやがて戻ってくる。どこにだって中心となるポジションがあり、そこに向かって戻ってくるのだ」とグリフィー氏は語る。

前回の危機と同様、あらゆるエージェンシーとメディアのオーナーは自社の価値を示す能力が試される。失敗すればメディア計画からは外されることになるだろう。P&Gで2001年から2008年にかけてCMOを務めたジム・ステンゲル氏は、差別化要因を明確に示し、それを持続させられる企業はほんのひと握りだと語る。

「不況によって底辺への競争は加速する一方だろう」とステンゲル氏は語る。「そしてクライアントはパートナー企業がどれだけ迅速に動けるか、どれくらい創造的な仕事ができるかを見ており、優れたところはさらに優位になる。これがいま起きていることだ。今回の危機を通じ、より強固になるパートナー関係は確実にあるはずだ」。

「苦境にこそ真の友人が分かる」

独立系クリエイティブエージェンシーのクリーチャー(Creature)のCEO、ダン・カレン・シュート氏は、現在どのクライアントもエージェンシーも、メディアも程度は違えど打撃を受けているという点では同じだと語る。パートナーのために割引や優遇を行ったり、パンデミックに負けないための共通認識を持ったりといった程度の話ではない。苦境に追い込まれたから割引というのは、そもそも大したパートナー関係を築けていなかったのだ。

カレン・シュート氏は次のように語る。「苦しいときにこそ真の友人が分かるものだ」。

LARA O’REILLY(原文 / 訳:SI Japan)

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May 02, 2020 at 10:00AM
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