2種類の繊維状カーボンと環動高分子を複合化
産業技術総合研究所(産総研)と東京大学の研究グループは2020年2月、ゴムのように柔らかで、金属に匹敵する高い熱伝導性を示す「ゴム複合材料」を開発したと発表した。フレキシブル電子デバイスの熱層間材や放熱シート、放熱板などへの応用を見込む。
今回の研究成果は、産総研先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリタフコンポジット材料プロセスチームの伯田幸也ラボチーム長と後藤拓リサーチアシスタント(東京大学大学院新領域創成科学研究科大学院生)および、東京大学大学院新領域創成科学研究科の寺嶋和夫教授(産総研先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ特定フェロー)らによるものである。
開発したゴム複合材料は、直鎖高分子(ポリエチレングリコール)と、その上で動く環状分子(シクロデキストリン)からなる環動高分子「ポリロタキサン」中に、カーボンナノファイバー(CNF)および、カーボンナノチューブ(CNT)という、サイズが異なる2種類の繊維状カーボンをフィラーとして分散させた。
分散性を改善するため、直径が200nmで長さ10〜100μmのCNFと、直径が10〜30nmで長さ0.5〜2μmのCNTを、重量比9対1の割合で塩化ナトリウム水溶液に分散し、独自に開発した流通式水中プラズマ改質装置を用いて表面改質を行った。
続いて、このCNF/CNT混合物を、溶媒(トルエン)中でポリロタキサンや触媒、架橋剤と混合。これを交流電界処理用の容器に移し、交流電界をかけながら架橋反応させた。こうして作製したゲルを、オーブンで加熱して溶媒を取り除き、フィルム状の複合材料とした。
開発した複合材料は、まゆ状の凝集体がほぐれ、加えた電界の方向にCNFが配列。しかも、配列した大きいCNFに小さいCNTが巻き付いて、CNF間をつなぐように分散していることが分かった。少ないCNTがCNF同士をつなぐことにより、複合材料全体に熱伝導ネットワークが形成され、CNFの配列方向で14W/mKという高い熱伝導性を実現できた、と分析している。
開発したゴム複合材料は、繊維状カーボンの添加率が50wt%となっても、繰り返しの変形に対し、もろくはならなかった。繊維状カーボンとポリロタキサンの環状分子が架橋し、環状分子が動くことで、高い柔軟性が維持されたとみている。
開発したゴム複合材料と既存材料の、ヤング率と熱伝導率も測定した。表面改質した繊維状カーボンを用いることで、窒化ホウ素系よりも熱伝導率は1桁高く、ヤング率が低くなるなど、実用可能なレベルのゴム複合材料であることが分かった。
研究グループは今後、CNFの配向条件や改質条件を最適化し、熱伝導性と柔軟性をさらに高める計画である。さらに、複合材料の構造と特性の数理的関係についても解明を進めていく。
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