今から26年前にカプコンからリリースされた、サバイバルホラー・ゲームの原点『バイオハザード』。このゲームの初代ディレクターであり、最新作『Ghostwire:Tokyo』を発表し世界中で注目を集めている三上真司さん(Tango Gameworks代表)。そしてバイオハザードシリーズの開発に長年携わってこられたカプコン開発トップの竹内潤さん。現在ゲーム業界を牽引するトップクリエイター二人の夢の対談が実現。かつての先輩と後輩という関係、これまでの開発エピソードやその経緯。あらためて『バイオハザード』について深掘りするとともに、その魅力に迫ってみた。
三上真司:「ホラーを作れ!」と、当時(カプコン時代)の上司の指示から始まったんです。でも、資料も何もないし、ゼロからのスタートだったので、苦労したことしか思い出せないですよ(笑)。
竹内潤:僕はそれを横目で見ていて、大変そうだな~って思っていました。もちろん、初期から携わっていましたが、一本丸々開発を担当する責任者と、開発スタッフとして関わるのとではぜんぜん違いますからね。ホント大変なんです。
三上:それでも自信はあったんです。根拠はありませんが、手応えみたいなものはありました。いま見返すと恥ずかしい点やアラは多々ありますが、ホラー映画の中に入る没入感みたいなものはできていたので。
口コミで広がり大ヒットシリーズへ。
竹内:実際、その恐怖体験が口コミで徐々に広まり、セールス面でも成功しました。動画配信やSNS全盛ではない時代だったので大健闘だと思います。以降、このヒットがあってシリーズ化され、現在220の国と地域で楽しんでもらっています。ホラーそのものは映画や小説などで既存のジャンルとしてはありましたが、実際にゲームでプレイするものとして、エポックな作品だったと思います。
三上:でも、恐怖って人それぞれ捉え方や感じ方も違うし、難しい。自分の中で怖いと感じていたのは心霊もので、開発当初の1か月は心霊っぽいものを企画として出していました。でも、よくできたホラーゲームをつくっても、それだけでは売れないのはわかっていました。なので、映画のジョーズやグリズリーのようなモンスターが人を襲う要素を入れたりとかね。それと、ゾンビから逃げるだけでなく、倒す爽快感があって、それらがシリーズならではの味付けになっているんじゃないかな。
竹内:僕は当時グラフィックを担当していたんですが、見た目のインパクトは大きかったですよ。それ以前のゲームにはなかったものだったので、その点でも革新的だったと思います。
三上:そうね。いま見ればそうでもないんだけど、当時のお客様目線で見れば確かに綺麗で緻密。
竹内:当時は1枚の絵を仕上げるのに、機械から出力するだけで1日半かかる時代でした。大変でしたよね。
三上:でも、まだ1作目はそれでもマシなほうで、シリーズ2作目になるとそれ以上に大変だった。
竹内:そうそう、そうでした。非常に高価なPCを24時間フル稼働で酷使していたんですが、メーカーからしたらそんな使い方は想定外なので、当然、頻繁に壊れるんです(笑)。時間がないのに壊れるわで、本当に大変でしたね。
三上:その上、人に対してPCの数が足りていなかったので、夜勤と日勤の2交代制でつくっていました。あの頃はスタッフで家族持ちも少なかったし、夜勤のほうが人気はありましたけど……とにかく忙しかったです。
竹内:そうでしたね。
三上:でもね、そうして苦労してつくり終えた後は、実際に販売店に足を運んで様子を見るんです。データではなく、体感で得られるものがあるので。
竹内:僕も発売直後は店舗に行きます。『バイオハザード5』の時もそうでしたし、けっこう最近でも行っているほうだと思います。でも、発売直後の話でいったら、三上さんが特に気にしていた作品って『バイオハザード4』じゃないですか? 僕はその時は一切携わっていなかったんですが、あの時、評判をかなり気にしていたようにお見受けしたんですが。
三上:確かに気にしていたと思う。当時、これってバイオハザードじゃなくてもいいよね? っていう方向性で取り組んでいたこともあったし。でも、その後のシリーズ展開を考えた時に間違ってはいなかったのかなと。自分的には次に担当する人がやりやすいようにしたつもりなんです。例えば、アクション性を強めて、それが(バイオハザード)らしくないとなったら、次で戻せばいいわけですしね。
竹内:傍で見ていた僕からすると、全然(バイオハザード)っぽくないのに、きちんとバイオハザードとして成立していたので正直驚きましたけど。
三上:それでも、その頃だとシリーズの大ファンを自負するスタッフも入社していて、試遊させたんだけど、翌日には3ページくらいのレポートが上がってきて。そこにはね「こんなのバイオハザードじゃない!」って、そうした恨みつらみが延々と書かれてあったんだけどね。
竹内:当初はそうした声があったのも事実ですが、一方で、シリーズ最高傑作と言うファンも多くいましたよ。
三上:ファンを怒らせるかも? という点で言えば確信犯的なところもあったけれど、ゲームとしては面白いものをつくれた自負はあったし…でも、自分の心が弱かったら途中で折れていたと思う。
竹内:初期から開発に関わってきて、これまでを知っている僕からすると、この時(『バイオハザード4』)の大きな変化は三上さんにしかできない。そう思いましたけどね。実際、感想を尋ねられた時にも直接三上さんに「イケてますよ」って言いましたよ。
三上:そうだったっけ? ごめん。全然覚えていない(笑)。で、竹内自身の場合はどうだったの?
竹内:僕は急遽『バイオハザード5』を引き継いで、その後の『バイオハザード7』の時もシリーズの立て直し的な意味合いで統括させていただきました。それまでバイオハザードらしさみたいなものってスタッフの中では漠然としたものしかなかったんですよ。
三上:らしさってホラーでしょ?
竹内:そう、そうなんですけど、ただ、これから先の10年を考えた時に、4、5、6と続いたアクション性に振った方向で続けていいの? というのは正直ありました。なので、『バイオハザード7』を開発するタイミングでリニューアルし、原点である恐怖にフォーカスし、もう一度怖いものをつくろうと。時代でいろいろ変わってもホラーだけは変わらない。
三上:シリーズ5、6はある意味呪縛だったしね。7ではピュアホラーに振り切ったことで時代やお客様のニーズにもマッチしたよね。加えてVRとの相性も良かった。でも、7とヴィレッジ(8)は主観(一人称視点)にしているけど、シリーズは今後もこの方向性でやっていくの?
竹内:プレイする視点に関してはあんまりこだわっていないです。より良いものがあれば、視点に限らず取り入れていきたいです。
三上:そうだね。時代に応じていろいろ変えていいんだよね。それがバイオハザードブランドの特徴なんだと思う。
竹内:ですね。ただ、ホラーという部分だけは例外。ここだけはシリーズを通してこれからも守っていきたいですね。ところで、三上さんの新作(『Ghostwire:Tokyo』)の進捗状況は、どんな感じなんですか?
三上:えっ、それをいま聞くの?
竹内:当然、聞くでしょ。
三上:一言で“イケメン”の出来。大事な要素であるルックが抜群。そして、2022年に出します!
竹内:おっ、言質頂きました! 楽しみにしています。
『バイオハザード』
ホラー映画をプレイする! 全ホラー・アクションの原点。
26年続くシリーズの原点。ホラー映画の中に入り、実際にプレイするという革新性で大ヒット。後にホラーゲームが多数輩出されるきっかけにもなった。2002年にはリメイク作品も発売されている。
『Ghostwire:Tokyo』オカルト集団に口裂け女? 怪異が東京を襲う。
ファン待望の三上作品の最新作が遂にこの春リリースが決定! 舞台は謎の般若面の人物によって一瞬にして人々が消失してしまった東京。主人公は未知なる怪異と対峙し、真相を追求し、東京を救うという一人称視点のアクションアドベンチャー。PlayStation5、PCで発売予定。©2022 Bethesda Softworks. All Rights Reserved.
三上真司さん(一枚目写真右) Tango Gameworks代表。エグゼクティブ・プロデューサー。ゲームデザイナー。1990年にカプコンに入社。’96年にディレクターとして『バイオハザード』をリリース。以降、数々のヒット作に携わり、2022年春には最新作『Ghostwire:Tokyo』をリリース。
竹内 潤さん(一枚目写真左) カプコン常務執行役員。CS第一開発統括。ゲームクリエイター。1991年カプコン入社。これまで『ロストプラネット』『バイオハザード5』を手掛け、『バイオハザード7』『バイオハザード ヴィレッジ』では開発総責任者。
※『anan』2022年2月9日号より。写真・中島慶子 土佐麻理子 取材、文・川上浩平 ©CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
(by anan編集部)
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