昨年、結成三十年、二人体制になってから二十年を迎えた電気グルーヴ。この節目の年に二人は厳しい試練を受けることになる。3月にピエール瀧が逮捕され、有罪判決を受ける事件が起きた。
石野は当時一貫して、石野流でピエール瀧をフォローする発信をSNSで続け、その動向も注目を集めた。あの一件は二人の関係に何をもたらしたのか。インタビュー後編では事件後の二人の心境に迫る。
(文=那須千里 写真=南阿沙美)
インタビュー前編:「瀧がもう一人いれば……」電気グルーヴ、言葉にできない二人の関係
何が関係解消の理由になり得るのか?
2019年、ピエール瀧が麻薬取締法違反の容疑で逮捕された3月12日は、「電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”」の最中で、三日後と四日後に控えていた東京公演は中止となった。ミュージシャンとしてはツアーを完走できなかったことになる。第一報を聞いたとき、石野はそれをどのように受けとめたのか。
石野 それはもちろんびっくりしますよ。びっくりはしましたけど、それで何かが変わるということはなくて。ただやることが増えたという感じ。それぐらいです、本当に。
もちろん、チケットを買って待っていてくれたお客さんに対しては悪いなと思いましたけど、起きてしまったことはどうしようもない。それより何より、瀧が個人で対処したり負担したりしなきゃいけないことが、まずとんでもなく大変じゃないですか。
ピエール瀧 僕としてはもちろん、電気グルーヴとしてやりかけていたことが色々とできなくなったわけですから、えらいことになっちゃったなあという気持ちはありましたけど……いや、でも、その瞬間はそこまで落ち着いていないというか。大変なことになったなというのが、とりあえず最初だったので、それを考えられるようになったのはもうちょっと後のことですかね。そんなに冷静じゃいられないですよ、やっぱり。手錠ですもん、だって。手錠って黒いんだ、という圧倒的な現実が目の前にあるので。
石野 でもそれがこっちにとってまで尾を引くことはまったくないというか。
ピエール瀧 もちろん反省は何よりしているんですけど、そこで日々下を向いて、反省していますという姿勢をずっと見せ続けても、解決にはならないというか。少なくとも僕のまわりの人たちや、電気グルーヴのお客さんたちは、そういうことを求めてはいないだろうと。中にはそうじゃない人たちもいるかもしれませんけど。だからといって、すみません、すみませんと頭を下げて、こういうインタビューでもあまり口を開かずにじっとしているよりは……。
石野 急に暴れ出す?
ピエール瀧 それこそ記事には書けないだろうな!(笑)。でもあのとき真っ先に表に立ってフォローしてくれたのは彼(石野)だし、この関係性としては前と変わらないというか。あれから電気グルーヴとして活動していない間も、わりとずっと二人で会って、同じようにじゃれ合ったりしていたので。いろんなところで批判を受けましたし、今も批判がなくなったわけではないでしょうけど、こちらが萎縮していたところで彼が喜ぶわけではない。彼のためにもと言ったらアレですけど、僕がずっと下を向いていたところで何も状況は改善しないし、前にも進めないので。
石野 逆に問いたいんですけど、相手の逮捕ということが、友達関係から始まった仲を解消するきっかけや理由になり得るんだろうかと。
たとえば第三者を傷つけたり、直接の被害者がいる場合だったらまたちょっと事情は変わってくるかもしれないけれど、そうではない。だからいいじゃないかなんて言うつもりはまったくないけど、少なくともこの二人の関係性ということにおいては、それによって変わりはしないですよね。そこで「電気グルーヴ解散するんですか?」と聞かれてびっくりというか。解散するわけないじゃないですか。それで解消するようなやぼな関係性ではやっていないし、意識したり無理してそうしているわけでもない。それができるからこそ一緒にいるんだし。
卓球のツイートが唯一の楽しみだった
ピエール瀧の逮捕から二週間と置かずに石野はTwitterでのアクションを開始。メディアに向けたツイートや、コメントへのリプライにも、時には強烈な皮肉の効いたユーモアを交えつつ積極的に応じた。メンバーが不祥事を起こしたら、相方もしおらしくしているべきだという風潮も、ないとは言えない中で続けた発信だった。
石野 自分がしおらしくする必要をまったく感じなかったんですよ。べつに無理してやっていたわけでもないんですけど、それができたのは「狂っている」からじゃないですかね? もともと狂った人だと思われていると、そういうときはかえって楽なんです。むしろそれに対して攻撃してくるほうに狂気を感じるというか。SNSでのやり取りは公である以上、オーディエンスがいるものですけど、攻撃する側は一対一のやり取りだと思い込んでいて気づいていないんです。
ピエール瀧 自分がステージ上にいることに。
石野 こっちはショーとして自覚した上で発言しているから、自分のやっていることに対するリスクはまったく感じていなくて、むしろメリットを感じていました。好きでやっているんですよ、本当に。人はそれを「狂っている」とも言うんでしょうけど。で、そこでのやり取りをまた瀧に報告したいんですよ。一人でため込んだり吐き出したりしているんじゃなくて、それを共有できる相手がいるんです。
ピエール瀧 当時は裁判もあるし、あまり外にも出られなくて、家にずっといたんですけど、唯一の楽しみが朝起きて卓球のツイートを見ることでした。
娯楽を提供するのが電気グルーヴの役割
事件を受けて、電気グルーヴが過去にリリースしたCDは回収・出荷停止、動画の閲覧やサブスクリプションサービスでの配信も一時中断された。しかし石野によるツイート合戦や、1997年から続く長寿連載「電気グルーヴのメロン牧場」(「ROCKIN’ON JAPAN」)で当時の心境をそのつど言語化(石野の単独回も含め)していくことによって、電気グルーヴというものが続いている印象は強くあった。
そしてこの12月には、中止となった「電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”」以来、約1年9カ月ぶりのライブ「FROM THE FLOOR ~前略、床の上より~」を開催する。ピエール瀧の活動復帰後、電気グルーヴとして初のライブは、コロナ禍におけるファンクラブ限定の配信ライブという形になった。
石野 この状況でほかに選択肢がないという事情ももちろんあるんですけど、コロナ以前には戻れない中で、やり方を考えていくしかないですよね。うちらも初めてやることなので今はまだわからないですけど、うーん、正直、お客さんがいないと面白くないなという思いはありますよね。そもそも音楽を始めた原点がそうだったみたいに、周りに誰かがいないと。
ピエール瀧 こいつの家に集まっていた時代もそうでしたし、ライブをやったりフェスに出たりしているときも、基本的に僕らは娯楽用のバンドなので。目の前にお客さんがいて、みんなが娯楽を楽しんでいる場で、こっちも娯楽を提供して、楽しいよね~と共有する。そういう役割だと思うんですよね、僕らの存在意義って。
もちろん配信でも、モニターの向こう側でそれぞれに楽しんでもらう環境はあるでしょうけど、それを「共有」するという感覚が、実感としてともなうのが難しいなーというところに戸惑いはあります。でも今それを言ってもしょうがないので、とりあえずやってみて、反応を見るしかないですね。
石野 うちらとしては、こっちのやっていることに対して、お金を払ってくれる人たちへの対価をちゃんと大事にしたいんです。ファンクラブに入ってくれるのは明らかにお客さんじゃないですか。その人たちを特別扱いしたいんです。優しいでしょ?(笑)。ライブがきっかけでファンクラブに入ってくれる人たちが増えれば、去年独立して立ち上げた個人事務所の活動資金も潤うんですよ。
ピエール瀧 うちのファンクラブは月単位の更新なので、ライブを見たいときだけ入会する人たちがいてもいいですし。
石野 そうそう。でもそれは大事なことですよ。お客さんとファンは違うと思うんですよね。捕まる前の瀧が街中で「ファンです」と声をかけられることはよくあったんだけど、ファンを名乗ることは誰にでもできるし、手のひら返しで離れていく浮動票にアピールするよりも、固定票を入れてくれる「お客さん」に向けてきちんと届けたい。ね?
ピエール瀧 うん、そうですね。
石野 嫌いなら嫌いでいい、アンチには理解できない魅力が俺たちにはあるぜ!という揺るぎない自信があるんです(笑)。しかも根拠のある! でもこれが活字になると強烈なんだろうなあ。そういうときはね、メロディーに乗せたほうがいいんですよ。
もはや「友達」ですらない
2019年3月、「サウンド&レコーディング・マガジン」(リットーミュージック)に掲載されたインタビューで、長く活動を続ける秘訣(ひけつ)を問われたピエール瀧は「オマエの卓球を探せ! そして仲良くやれ!」という答えを残していた。
それを聞いた側としても、この一年ほど、その言葉が骨身にしみたことはない。自分か相手のどちらかが窮地に陥ったとき、何はともあれ味方でいてくれる人、味方でいたいと思える人が、自分にはいるだろうか。その答えこそが、二人の関係そのものである。
石野 結果的に、電気グルーヴにおける瀧のパートは「瀧」でしかないんですけど、それをもうちょっと大きな目で見ると、自分にとっての父親、母親、妹、おいっ子といった続き柄と同じような並びに「瀧」がいて。もはや「友達」ですらない(笑)。友達よりも近いし、かといって恋人という感じでもないし。
ピエール瀧 同僚でもないし。
石野 ビジネスパートナーというほどドライな関係でもないし。やっぱり「瀧」なんですよね。
※このインタビューは、11月17日の「鬼日」(電気グルーヴの楽曲「カフェ・ド・鬼」に由来する記念日)に行われたものです
インタビュー前編:「瀧がもう一人いれば……」電気グルーヴ、言葉にできない二人の関係
プロフィール
電気グルーヴ
1989年、石野卓球とピエール瀧らが中心となり結成。1991年、メジャーデビュー。1995年頃より、海外でも精力的に活動を開始。2001年、石野卓球主宰の国内最大級屋内ダンスフェスティバル“WIRE01”のステージを最後に活動休止。それぞれのソロ活動を経て、2004年に活動を再開。以後、継続的に作品のリリースやライブを行う。2015年、これまでの活動を総括したドキュメンタリームービー「DENKI GROOVE THE MOVIE?-石野卓球とピエール瀧-」(監督・大根仁)を公開。2016年、20周年となるFUJI ROCK FESTIVAL‘16のGREEN STAGEにクロージングアクトとして出演。2020年8月、約2年半振りのシングル「Set you Free」をリリース。
〈HP〉http://www.denkigroove.com/
〈Twitter〉https://twitter.com/denki_groove_
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〈Instagram〉https://www.instagram.com/denkigroove_official/
〈YouTube〉https://www.youtube.com/channel/UCCWOjSKmrRcVw6n6E1Zp_iQ
ライブ情報
電気グルーヴ、1年9ヶ月振りのライブ
“FROM THE FLOOR ~前略、床の上より~”
ファンクラブ会員限定で配信
2020年12月5日(土)20:00より、電気グルーヴのファンクラブ(DENKI GROOVE CUSTOMER CLUB)会員限定のライブ「FROM THE FLOOR ~前略、床の上より~」が、ローチケLIVE STREAMINGで配信。
2019年3月にZepp Osakaで行われた「電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”」以来、約1年9カ月振りの電気グルーヴのライブとなり、無観客で行われる。同公演は、配信終了後、12月8日(火)23:59までアーカイブ配信が視聴できる。
DGCC MEMBER’S TICKET : ¥3,600
視聴方法など詳細は、DENKI GROOVE CUSTOMER CLUBの会員ページにて。
ファンクラブへの入会は随時可能。
https://www.denkigroove.com/fanclub
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December 04, 2020 at 06:00AM
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