東京大学は、透明電極に用いられる酸化スズ薄膜で、極めて高い移動度を達成した。この移動度が成長方位によってほぼ決まることも明らかにした。近赤外光を利用する次世代太陽電池の変換効率改善などにつながるとみている。
近赤外光利用の次世代太陽電池で変換効率向上へ
東京大学は2020年4月、透明電極に用いられる酸化スズ薄膜で、130cm2V-1s-1の移動度を達成したと発表した。この移動度は成長方位によってほぼ決まることも明らかにした。今回の成果は近赤外光を利用する次世代太陽電池の変換効率改善などにつながるとみている。
今回の研究は、東京大学大学院理学系研究科化学専攻の長谷川哲也教授や廣瀬靖准教授、中尾祥一郎特任研究員(研究当時)、福本通孝大学院生らの研究グループと、神奈川県立産業技術総合研究所、東京都立産業技術研究センター、東京工業大学らの研究者が共同で行った。
酸化スズは、透明電極として薄膜シリコン太陽電池などに用いられている酸化物半導体。移動度は半導体性能を示す値の1つであるが、透明電極に応用する場合、移動度が高いほど優れた導電性と透明性を両立できるという。バルク単結晶では最大260cm2V-1s-1の移動度が報告されている。ところが、実用的な薄膜だと10〜40cm2V-1s-1で、基礎研究レベルの単結晶薄膜でも移動度は100cm2V-1s-1程度だという。
研究グループは今回、パルスレーザー蒸着法で二酸化チタン(001)単結晶基板上に、品質が高い(001)配向の酸化スズ単結晶薄膜を作製。不純物としてタンタルを添加し電子濃度を系統的に変化させながら、薄膜の移動度を測定した。この結果、電子濃度が上昇すると移動度も大きくなった。今回の実験では、電子濃度1×1020cm-3以下において、移動度は最高値で130cm2V-1s-1となった。
移動度を決定する因子として「格子振動」や「イオン化不純物」「転位」「粒界」「中性不純物」などが知られているが、酸化スズ単結晶薄膜における移動度の抑制因子はこれまで解明されていなかったという。
酸化スズは、単結晶基板と薄膜との格子不整合により{101}面欠陥が生成され、これが基板界面から薄膜表面まで伝搬し、粒界散乱する可能性があることは既に報告されている。今回作製した(001)配向の薄膜では、{101}面欠陥が34度という浅い角度で生成されるため、伝播を抑制することが可能だという。実際に、透過型電子顕微鏡で観察したところ、面欠陥は基板界面から30nm程度で消失していることが分かった。
さらに、二酸化チタン基板やサファイア基板など、さまざまな種類の単結晶基板上で、さまざまな方位の酸化スズ薄膜を合成し実験した。この結果、「移動度は基板種類によらず成長方位によってほぼ決まる」ことや、「移動度は(001)、(101)、(110)、(100)配向の順番に低下する」ことが分かった。
今回の研究では、高価な単結晶基板を用いて酸化スズ薄膜を作製した。実用化に向けて今後は、安価なガラス基板上に(001)配向を行うためのシード層を開発していく予定である。
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