実際に起きた事件に着想を得て、新たな物語として紡ぎ出す衝撃作『MOTHER マザー』が7月3日(金)に公開される。母親という存在の闇と奥深さを体当たりで表現しているのは、今年で女優生活20周年を迎える長澤まさみ。その息子役にはオーディションで大抜擢された新人、奥平大兼。大森立嗣監督が描いた母と息子の関係とは──。
この“毒母”は究極の聖母か、怪物なのか!? 長澤まさみの新たな代表作。実際の事件に着想を得た、母親と息子の絶対領域の物語
話題作と軽々しく呼ぶには、余りに壮絶。あの長澤まさみが激しく声を荒げ、狂おしいまでの熱量で“毒母”を演じる。良くいえば自由奔放、大人としての責任を放棄し、ひたすらその場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子。職にも就かず昼間から飲んだくれている彼女は、別れた夫からの養育費も生活保護費もすぐ使い果たし、実家から借金を重ねたあげく、ゆきずりの男たちに溺れる。それでも息子の周平は母に黙ってついていく。この親子の間にあるのは深刻な共依存なのか、それとも他人の理解を超えた特別な愛の絆なのか――? 監督は大森立嗣。オリジナル脚本だが、着想となっているのは実際に起きた事件だ。2014年に起こった「川口祖父母殺害事件」――当時17歳の少年が祖父母を刺殺し、金やキャッシュカードを奪って逃走したがのちに逮捕された。原案として毎日新聞記者の山寺香の取材によるノンフィクション本『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』(ポプラ社刊)がエンドロールにクレジットされているが、この映画はあくまでフィクションとして事件の詳細や顛末を独自に再構築している。 とにかく秋子は、息子の周平を徹底して支配下に置いている。まだ小さい周平だけを残して何週間もアパートを開け、部屋の電気やガスが止められた頃に、遊ぶ金がなくなって見知らぬ男と一緒に帰ってくる。やがてこの男――ゲームセンターで出会ったホストの遼(阿部サダヲ)の子どもを妊娠し、幼い娘まで連れて一時はホームレスにまで転落。それでも周平は母親に逆らわない。学校にもロクに通っていない彼は母親の文化圏以外の世界を知らず、あらかじめ去勢されたように親の所有物から抜けられない。にもかかわらず、淡々と「お母さんが好き」だと言い続ける。 大森立嗣監督は衝撃的な前作『タロウのバカ』(2019年)で“棄てられた子どもたち”の暴動のような祝祭的破壊をパワフルに描いたが、サブテーマに親子関係の歪みやネグレクト(養育放棄、児童虐待)の問題を組み込んでいた。今回はその主題を全面展開した趣だ。『タロウのバカ』と『MOTHER マザー』は同じ問題意識のワンセットとして解読することも可能だと思う。 そして特筆すべきなのは役者陣だ。長澤まさみをはじめ、阿部サダヲ、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳、荒巻全紀、大西信満、木野花……実力派たちがドラマの強度をがっちり支えるなか、16歳から17歳になる多感な時期の周平を演じる新人、奥平大兼の無骨かつ澄明な存在感が光る。演技未経験ながらオーディションで抜擢された彼は、『誰も知らない』(2004年/監督:是枝裕和)でデビューした頃の柳楽優弥を彷彿させるほどの期待の大器だ。 全体に高出力のエネルギーに圧倒される一本だが、周平が妹の冬華(浅田芭路)に佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』を読み聞かせるところなど、静かなシーンも切々と胸に染みる。 『MOTHER マザー』 監督/大森立嗣 出演/長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、木野花 7月3日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開 (C)2020「MOTHER」製作委員会 配給/ スターサンズ/KADOKAWA Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito
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July 02, 2020 at 07:54PM
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